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    「先生お帰りになりましたかね」

    今度は正文の方で答へなかつた。そして急に苦がい顔になつて、ぢろりと薬戸棚を見まはしただけで母屋おもやの方へ帰つて行つた。

    と、小谷が徳次の足に目をつけて云つた。どこで手に入れたのか、徳次は白い紙緒の藁草履をちやんとはいていた。

    練吉は顔をしかめ、手を振つた。

    「さつき、はじめは、はてな、見慣れない男がいるな、と思つたくらいですからな」

    そのとき、女房に命じて、温泉を加熱する装置を施してもいいか、ときかせると、

    その子供染みた好奇心に輝いている横顔は、この老人の胸の奥から恐らくその年齢と調子を合せてゆつくりと流れて来る悦びのためもあつたらう。その悦びの源泉はもとより房一にあつた。

    「ところがね、大石さんの銃は、あれはマネスターと云ひましたかね、あのマネスターは立派なんだけどなあ。そのわりにあたらないもんですね」

    と、敬遠するとも小莫迦にするとも見える頭の下げ方をして、さつさと行つてしまふのであつた。

    わきから又誰かが冷かした。

    「お松は「い」の字と言う酒屋に嫁よめに行ったです。」

    「あ、いゝ、いゝ。なんでもありやしない。今すぐ行かう」

    「あ、神原の喜作さんだ」

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